「聞こえてないの? どうやってあの人に近づいたのよ!?」
とうとうヒステリックな声を上げた先輩が大きく一歩詰め寄って、ビクッと肩を震わせる。
きっと怒りに打ち震えているのだろう先輩のことを想像すると顔なんて上げられない。
面白くもないのに自分の上靴をじっと見つめる。
「あの人も見る目がないのよ! 私みたいに綺麗な子の方が絶対釣り合うのに! どうしてあんたみたいな地味な子が!!」
もうあたしを責めているというよりは、彼女の痛切なる叫びのようだ。
私はこんなに好きなのに彼はどうして分かってくれないんだと、いっそ執着にも似たそれは突然現れたあたしという存在を憎しみに塗れた色で見つめているのが顔を上げなくても分かった。
怖くて、恐ろしくて、苦しくて、泣きたくて、逃げ出したい。
なんであたしがここまで言われなくちゃならないの?
あたしは何も悪いことはしてない。
表面的なことを並べ立てて何も見ていないのは先輩達の方なのに.....。
泣きたくない、泣きたくない。
悔しくて爪を立てるように拳を握る。
視界が薄い膜が張られたようにぼやけてくるのが分かった。
どこからか『あの子泣いちゃうんじゃないの』なんて声が聞こえてきて、唇を噛みしめる。
絶対、泣いてなんかやらないんだから。
ぷつんと音を立てて唇が切れて、鉄の味が広がった。


