「ひそひそ言われるのは嫌だけど、夜久君と仲良くなれたのはすごく嬉しいし、学校でも話しかけてくれることは嬉しいんだ。だからやっぱり、そういうことはしたくないなあって」


他人の評価に振り回されて苦しんできたのは多分、夜久君の方だ。

折角、あたしと話すのは楽しいって言ってくれたんだから、あたしだってその言葉に誠実でいたいんだよ。

そう思うことはきっと間違いじゃないよね?


「そう言うと思った。雪穂ってビビりなのに頑固だよね」


楓は適当に開いていた選択教室の扉を開けながら『そういうとこ嫌いじゃないけどね』と付け加える。

廊下側、一番後ろの机を二つくっつけて、お弁当の用意をしていると楓は顔を上げた。


「で、どうするの?」


唐突で脈絡のない質問に首を傾げる。


「どうするのって......?」

「これからどうするのって聞いてるの。好きなんじゃないの?」


必死で言葉の意味を咀嚼しようと噛み砕いて嚥下しようとしても、楓が何を言っているのか、分からなかった。


「......え」


暫くして漸く出てきたものは言葉というには程遠いもので、疑問にもなっていないそれは意味などないただの雑音のようなものだった。