「でも、私の中では株上がったけどなー。良い物件なのに、雪穂は興味ないの?」

「良い物件って.......。人を物みたいに......」


相変わらずの物言いに思わず苦笑する。

楓には逐一報告させられるせいで、全て話を知っている。

ミーハー女子恐るべし。

でも、噂好きの楓がその話は絶対話さないことをちゃんと守ってくれてる。

だから、楓にはなんでも話せちゃうんだ。

だけど.....。


「付き合ってないんだ。そりゃそうか、あんなフツーの子」

「そうだよ。話すって言っても夜久君が女の子とまったく話さないから珍しいだけで、話すって言っても挨拶くらいでしょ?」


ひそひそ聞こえてくる声にはやっぱり慣れなくて、悲しいくらい臆病なあたしはそれらを気にしないなんてことは出来なかった。

寧ろ、じわりじわりと滲むように痛くて、そんな自分が情けない。

そんなあたしの様子に気付いたのか、楓は一つ溜息を吐いた。


「雪穂、ほら、弁当持って。行くよ」

「わっ、ちょっと待って」


楓に手を取られて昼休みの教室を出る。

賑わう廊下をかき分けて渡り廊下を渡った先、あたしたちのクラスがある棟とは別の棟に来ると、水を打ったように静かな場があった。


「うーっ、やっぱ寒い」


漸く手を離した楓は両腕を擦りながら寒そうにする。