私は思わず何も言えなくなって
嵩広から離れて階段の方へとかけていった。
どうしよう…どうしよう……
涙なんか流さないって……
自分の中で決めてたのにな。
「きゃっ…」
私は階段の途中でつまづいて、そのまま下へと
見える世界が変わっていくのが見えた。
あ……これは終わりだ………。
そう思った時だった………。
突然その恐怖だった景色が変わったんだ。
誰かの大きな胸……
私を捕まえて離さないその腕……
暖かい何かが私をずっと包んでいて……
余計に涙が溢れ出していた。
ドスンっ………
ふわっと浮いた感覚がなくなって
何かが落ちた音がした。
私がふと顔をあげようとすると、
大きな手が私の顔を自分の胸に押し付けた。
「衣乃っ………」
雨で濡れた手でそのまま抱き締められて
私はまた涙がでた。
うつ伏せになった嵩広の上でずっと…
背中から落ちて痛めてるだろうに……
私をかばって落ちたくせに……
「衣乃……怪我ねぇか?」
優しすぎて困るんだよ……。


