「さようなら……衣乃さん…。」


僕はそっと撫でた髪にキスをして、

止まった車から降りて、衣乃さんを

家の中のベッドに寝かしつけた。


もう、君が僕の事を思い出すことはない。

これから先、僕という人間を

覚えることもない。


君は僕の存在だけ見えなくなった。

僕の存在だけ……無くなってしまった。


これが僕の隠していた左手の能力。


右手は人の記憶を置き換える能力。

左手はある特定の人と過ごした記憶だけを

綺麗さっぱり削除してしまう能力。


この左手の能力だけは例え、右手で触れて

書き換えようとしても元には戻せない……