「衣乃さんは覚えていないかもしれない。
でも僕は覚えていたから…。」
ヨルくんは綺麗な顔で優しく微笑んだ。
車がスッと止まってヨルくんは
私の手を引いて私を見つめた。
「木に引っ掛かった僕の風船を…木に登って
『はいっ』て僕に手渡してくれた女の子を…」
私はハッとしてヨルくんを見つめた。
あの日…この場所で……
風船が木に引っ掛かって泣いている男の子を
見て、いても立ってもいられなくて…
私は幼いながらに自分の運動神経の良さに
任せて、木を必死に登ってた。
嵩広も和馬くんも危ないから止めろって、
私を止めたけど私はそんなこと気にせず風船を
手にとって木を降りて、男の子に渡したんだ。


