そうやってわたしは嫌がらせを我慢する毎日だった。



そんなある日。


「ねぇ、池永さん。」

菊池さんが怒ったような顔をしてわたしに話しかけてきた。


「あなた、嫌がらせされてるでしょ。」


ストレートにそう問う彼女の視線は真っ直ぐにわたしを見ていた。


「え?」


誤魔化せない。
菊池さんは勘がいい人だ。
祐太朗さんと付き合っていることをすぐに見抜かれていたくらいだから。


「とぼけるんじゃないわよ。
その右手。踏まれたの?首筋に引っ掻いたような傷あるけど。
課長にもらったネックレスしてないわよね。
指輪も。

白状しなさいよ。」



そう矢継ぎ早に言われて。


「わたし…祐太朗さんの側にいちゃだめなのかな。好きって気持ちだけで側に居ちゃダメなのかな…」


吐き出したら楽になれた。
菊池さんが伊島課長に話してくれて。


2人がわたしを守るようにしてくれたから、それからは嫌がらせは無くなった。


謝るために連絡もせずに祐太朗さんのところに押しかけた。

金曜日の仕事を早めに上がらせて貰って、飛行機で九州に。


咲さんに教わった地図を見ながら祐太朗さんの居る会社近くで待っていると。


女の人の叫ぶような声がして振り返った。


シルエットだったけど、祐太朗さんだってわかる。

女性に抱きつかれていて。


わたしの心臓がバクバクいい始める。


やめて。


わたしから祐太朗さんを奪わないで…。


そう思ったら、谷川さんの気持ちが痛いほど解って。


大丈夫。祐太朗さんは俺を信じて、って言ったんだもの。


ここで、2人が何を話しているかわからないけど待つんだ。
そう自分に言い聞かせて落ち着こうとした。


重なっていたシルエットが急に離れて、祐太朗さんが女性を突っぱねたのが遠目でもわかった。


あぁ、信じて待っていていいんだ。祐太朗さんはわたしを裏切ることなんかしない。

それは仕事だってそう。

課長としてわたしたちの指導をしていた時も、誰のことも裏切らない。


「詩織!」


わたしに気付いた祐太朗さんは小走りでやってくる。

嬉しそうに笑って。


「来ちゃいました。」


そう言ったのに、彼は何も言わなくなってしまった。


どうしたんだろう、と一瞬考えたけれど。


さっきの重なったシルエット。
あれは…。


「さっきの女性となにかあったの?」


そう問いかけたら、祐太朗さんが顔をしかめた。


やっぱり。


祐太朗さんは隠さずに本当のことを言ってくれた。
ショックだったけど、嘘じゃないってわかってほっとした。