そんな彼は、私の声に一度振り返り席を立った。 周りからかけられる別れの言葉に適当に返事をする彼は、その何気ない行動ですら王者のようなオーラが隠しきれていない。 チキンな私は自分で彼の名を呼んだくせに、こちらにやってくる彼から逃げ出したくなる衝動に駆られ、オロオロと辺りを見回す。 「ゆき?」 「あ、ごめんなさい。」 無意識に俯いていた私は、そんな声にハッとした。 目の前には私を見下ろす二つの黒水晶。