そんな晴信の籠もる部屋に自然と入り、あらあらと口許に手をあてて笑う女が一人。


ただ微笑んでいるだけのその仕草からはどことなく気品や優美さが溢れている。


楽しそうに笑う彼女に向かって晴信は"起きたのか"とその表情を緩めた。

そしてぐっと体を伸ばす。


彼女は彼の二人目の正室で三条の方と呼ばれている女。


そんな彼女をミツと呼び晴信は気を許したように体の力を抜く。


ミツというのは彼女の実家である転法輪三条(てんぽうりんさんじょう)から彼がつけたあだ名だ。


ミツは晴信だけが呼ぶこの呼び名を大層気に入っていた。