「美結、主役だったよね?劇ってなんだっけ?」


陸上部所属の陽はこういうところに疎い。ちゃんと美結が、上演する劇については説明したじゃんか。


「『ウェストサイド・ストーリー』だって言ってたよ。陽、聞いてなかったのー?」

「それってどんな話なわけ?」


途中、別のクラスの模擬店から陽がお好み焼きを買ったから、それを食べながら浴衣姿のままぷらぷらと歩いて体育館へと向かう。


「ロミオとジュリエットのアメリカ版だってよ?貴族とかじゃなくて、不良チーム同士の争いに巻き込まれた恋愛モノで、主役のトニーって役には人気がある先輩が出る…とか美結が言ってたけど。佐倉センパイだったかな?」


でも、まだ2年なのにヒロインのマリア役を射止めた美結も凄いなーって思う。


美結の初主演が楽しみだったんだけど、クラスの模擬店の休憩時間が遅くなっちゃったからギリギリでも最後の方だけでも観たいなぁ。




だけど陽が観たいのが、美結じゃなくて作倉センパイに替わってしまったみたいで。


「うっそ!マジで!? 作倉センパイってちょーイケメンじゃん!こっこ、急ごう!」

「うわっ」


作倉センパイの名前を出した途端、強引に手を引っ張られて体育館へとダッシュさせられた。