「りっくん、なんだかけむたい」

――父の部屋から戻るや否や、直ぐ様抱き付いてきた晴海はそう言って不満げに口を尖らせた。

「ごめん、父さんが煙草吸ってる傍にいたから…」

慌てて謝罪すると、晴海は困ったように首を小さく振る。

「ううん、いいけど……りっくんのにおいがしなくなっちゃうの」

自分の匂いがどんなものかは良く解らないが、確かに煙の匂いは他の香りを打ち消してしまう。

周の場合は煙草の残り香も含めて“周の匂い”と認識してしまっているのだが。

「……りっくんのおとうさんって、りっくんみたいにめがあかいんでしょ?」

「そうだよ。母さんから聞いたの?」

「うん。りっくんのきれいなめのいろ、おとうさんとおそろいなんだよって」

「姉ちゃん、陸の眼がやけにお気に入りだなぁ」

傍で聞いていた風弓が、少し食傷気味に呟く。

「うん、すき。だって……うさぎさんみたいでかわいいもん」

「う…うさぎっ?」

瞬間、風弓は思い切り吹き出したが晴海の気を悪くさせないようにか崩れるように物陰に隠れた。

十年前に初めて出逢ったときにも炎夏での再会のときにも、晴海は髪色や眼のことを綺麗だと誉めてくれたが、まさかそんな風に思われていたとは。

「……だめ?わたし、うさぎさんすきよ?」

「駄目では、ないけど…」