血よりも愛すべき最愛


「エスコート相手が不服かね。しかして、この世界のどこを探しても君に釣り合う男はいないだろうよ。ここは一つ、君を敬う者への慈悲として、僕に女神の手当てをさせてはもらえないだろうか。癒せる傷ではないのは重々承知であるが、痛いと泣く君をただ眺めているだけとは……。僕まで身を引き裂かれる思いなのだよ」

差し伸べてられた手を握る。
久々に母以外の人の手に、いや、人に触れた。

我欲ではなく、私のためと言ってくれる人。
『彼女』にとって、それは母以来の優しさだった。

もしかしたら『彼女』を手に入れんがための、前口上なのかもしれない。言葉は嘘をつく。疑う気持ちがある中でも、人の優しさに触れたいと思った。

久しくなかった温かさ。
触れたら最後、泣きたくなるほど嬉しくなる。

「我が生涯よ。それほど痛むのかい。自身の手に癒やしの術がないことをここまで憎む時が来ようとは」

「いえ、違うんです」

痛みに勝るものを与えられた彼女は、頬を濡らしながら微笑む。

「あなたが、とても優しいから」

平気ですと返す『彼女』。

『彼女』の賞賛に男は天にも召す顔をしたが、ふと、歪む。

「僕はきっと、聖女たる君には不釣り合いの男だ。優しいなどと言葉、『夜空』には当てはまらない」

『彼女』の首筋に添えられる指。男が何を言わんとしているかは、昨夜の出来事を思い返したから。

「君のためならば太陽ともなりたいが、それには僕のことを話す必要があろうね。そうして、君のことも知りたい。君のような可憐な小鳥がなぜ、こんな雑踏がひしめくここで羽ばたいているのか。人類の奇跡が野放しになり、あまつさえ、こんな痛みを宿しているのかを」

知りたい、知ってもらいたい。
そんな願いの第一歩として。

「アイヴィー・クレメント。君に生涯、恋する私の名だよ」

男ーーアイヴィーは名を名乗った。