血よりも愛すべき最愛


俯きそうになる顔は、男の指によって上げられた。

人と目を合わすことなど、いつぶりだろうか。鏡で自身と目を合わすこともないのに。

「雨に打たれた百合は、何を求めるのかね」

眼球の虹彩が、こんなにも綺麗だとは思わなかった。

下心がある男たちの瞳は、皆すべからく濁っていたのに。『夜空』の呼称に恥じない星の瞳が、『彼女』のみを映す。

自然と、恥という気持ちが出てきた。人と目を合わせられない理由の一つだ。こんな顔、あまり見られたくない。

『ママと目元がそっくりね』

「……っ」

大好きな顔なのに。

大好きな人と似た顔なのに、前を向けない。

下を向けば、涙が零れる。皮膚がチリチリと痛む。涙の塩分さえも毒だった。

「君の太陽は、いったいどこにあるというのか。無いのならば、僕が代わりとなろう」

太陽は、何年も前に失った。
本物の太陽さえも、顔の傷を焼くのだから、ネズミになるしかなかった。それでも構わない。上には自身を嫌悪するものしかいない、母はもう、いないのだ。

暗闇を進んでいた。ドブにまみれた、ドブ以上に汚く醜くあって、そうであれとも願っていた身なのに。

「さあ、戻ろう。ここは君にとって毒だろう。傷に障る。その繊細な身に、わざわざ痛みを宿すことはない」

傷がある。痛いだろう。

単純な言葉が耳によく通る。

「いた、い……」

顔の傷を見て、そんな言葉をかけてもらえたのは初めてだった。

『なんて、もったいないことを』

右と左を比較して、怪我があることを忌むべき人ばかりの中、労られた。

蔑まれた、疎まれた。美しいものを醜くしてと責められた。そこに至る背景も知らずに、ただひたすらに、『馬鹿なことを』と言われ続けてきた。

痛いと言葉にする前に涙する。何も言い返せずにして、顔を背けて逃げてきた。

きっと誰も分かってくれない。
当人の痛みなど二の次。壊れた芸術品を抱えている人間(愚か者)として見られて来なかったのに。