血よりも愛すべき最愛


男にしてみれば、乾いた目を一刻も早く潤わしたいがための行為でもーー腐った果実に舌を這わせる奴がいるものか。

『彼女』の右は、正にそれ。
腐りきった果実、豚の臓器、墓穴の死体、圧殺された芋虫。例えを上げれば皆が皆、見るだけで吐き気を催す醜さに例えられるというのに。

『彼女』自身でさえも、この顔になってから、鏡を見なくなった。見た瞬間に気絶をしてしまうおぞましさで、己で触れることも躊躇うと言うのに。

「気持ち、悪く……ないんですか?」

純粋な疑問だからこそ、陳腐な問いかけ。
問われた男は、『彼女』から話しかけられた事実に身を震わせていた。

「君の問いなら真摯に答えたいものだ。君が満足出来るように、またその鈴音にも勝る声で問い掛けてもらういたいが、質問の意味が計りかねる。いったい何が、『気持ち悪い』と言うのかね?」

質問に質問を返す男だが、答えたも同然であった。

嘘ではないのは、先の行為が証拠となる。

ーー気持ち悪く、ないなんて。

だとすれば、一つの可能性が浮上する。

「あなたは、“どちら”を愛してしまったのですか」

胸元に置いた右手に力が入る。
顔しか愛されず、右が壊れてから、左ばかり愛されていた自身。結局のところ、右のおぞましさで逃げ出す男ばかりとなったが。

逃げずに“真正面にいる男”に問う。

「私の“何”を愛してしまったのですか」