血よりも愛すべき最愛


大時鐘時計台。ビッグベンとも呼ばれる、この都市の象徴。

大地から見上げれば感嘆の声を上げるが、ここは、空中の牢獄だ。翼がないものが来るべき場所ではない。空飛ぶ鳥への憧れも霞となる広大さに、『彼女』の足は未だに震えていた。

「さあ、冷えるだろう。君の温かな心を凍えさせるものなどこの世に存在しないが、か弱き体には応えるであろう?」

だから、と手を伸ばす男。
愛されてしまった恐怖から拒絶をするも、男の言うとおり、外気が身に染みた。

この場に導かせた右側、閉じることがない右目がたちまち乾く。砂でもかけられたかのような痛み、たまらず『彼女』が目を伏せれば、当たり前のように男は言葉をかける。

「痛むのかい。ああ、なんと惨い。充血しているではないか」

乾燥しきった眼球。爛れ、膿み、錆色をした皮膚の隙間から見えた眼球を、男はおもむろにーー舐めた。

「え……やっ!」

押し返しの腕に間が出来たのは、まさかと思ったからだ。男が離れようとも、『彼女』は先の行為を理解出来ない。