血よりも愛すべき最愛


「ひっ」

目がくらみ、悲鳴を上げしまう外。
青空が近いということは、地上が遠いということだ。

三階四階の高さでは話しにならない。人が蟻のように見える高さとは、どういったことか。

震えた足が膝から折れる。
鳥でしかたどり着けない上空、耳をつんざくほどの鐘の音が聞こえ。

「捕まえたよ、僕の一生」

鼓膜を揺らがす前に、耳を塞がれた。
愛と恐怖を口ずさんで。

「慣れない内は、この鐘の音は心臓に毒であろう。見目からして繊細と分かる君の心臓にはとても堪えられるものではない。あいにくと、紛らす子守歌は持ち合わせていなくてね。あの部屋に戻れば、一切の害は届かない。ーーあの場所こそが、君が唯一、羽を休められる鳥かごなのだから」

塞いだ手が離れるなり、男は笑みを絶やさずに言ってみせる。

これまで幾度となく見てきた、『私を愛してしまった者の笑顔』だ。幸せながら盲信的であり、病的。麻薬に冒された人の眼差しは、恐怖しかない。

いや、と拒絶をしても無意味。
この倫敦市に数日しかいない身でも、ここがどこなのか、察してしまう。