血よりも愛すべき最愛


ーー

『彼女』が決まって目覚めにすることは、右目の“ヤニ”を取ることであった。

寝ているうちに隙間に溜まるヤニは、さながら膿のように粘り気があり、眼球にこびりつく。痛みはないが、夢にすらも浸食する不快感によって、『彼女』が熟睡できた日はない。

枕元には必ず、ハンカチを。ティッシュでも事足りるが、一夜にして一箱を使った時以来、経済的理由も兼ねて、『彼女』は必ずハンカチを使用する。

寝起きの習慣。今もまた、『彼女』の手は、枕元に伸びるが。

「あ、れ」

右目に視界がある。
初めてのことだ、それに。

「夢……」

母(幸せ)な夢を中断されずに見れた。
体が重くも清々しい気さえする。耳を済ませば、台所で母が朝食でも作る音が聞こえてきそうな感覚はーー

「よく、寝た」

久方ぶりの熟睡。
んー、と伸びをする直前。

「眠り姫や白雪姫の目覚めに立ち会った者の気分が実感出来るよ。また、口付けをしたくなる」

声すらも出ない驚愕が、ベッドの端に腰をかけていた。

「……!」

危機回避動作のため、『彼女』は逃げようと腰を上げるか、つく手を誤る。

ベッドからあわや落下する手前、男に手を引かれた。

「お転婆も、君がするならば、誘いにしかならない。どんな行動も心くすぐられる。この手を離したくないほどに」

「あな、た、は」

金髪の美丈夫は、一目見ただけで忘れらず、思い出す。

吸血鬼と名乗り、そうして、私はーー