「――」 口を離し、後退する吸血鬼は目を泳が彼た。 「な、ん……!」 体を震わせ狼狽し、眼球が落ちてしまうのではないかと思うほどに目を見開く。 『彼女』の肩から力が抜けたのも無理はない。死に損ないの気分は、ただただ呆然。殺すと言っておきながら、殺さないだなんて。 唾液で湿り、外気に晒された首筋の冷たさを感じつつ、『彼女』は男の狼狽を眺めるしかなかった。 かくいう男は、膝をついたまま雪山にいるかのように振るえている。ーー『彼女』の顔を眺めながら。