招く男の善意を『彼女』は断り切れなかった。この優しい笑顔を曇らせたくないし、何よりも、一人は怖いと思う身の上では、こうした招きは嬉しい。
男性であることへの恐怖心はあるが、この人は何もしないだろうと『彼女』は思う。
「神父様、ですか」
「ああ、まあね」
神に仕える優しき人が、悪いことをするわけがない。善意の塊だ、と『彼女』は安心しきり、教会の中に入った。
目深に被ったフードが落ちないのを気にしつつ、教会内部を一望する。
先ほどのように声は出なかった。
――何だか、怖いな。
天窓から差し込む月明かりで照らされた宙には埃が多く飛び交う。礼拝者が座る、左右対照に並ぶべき長椅子も斜めに傾いていたりと乱雑だ。
教会の奥のマリア像も煤けており、まるで――何年も使われていないような。


