十分が一時間経っても辿り着かないのはこのために。
人嫌いではなく他人に恐怖を覚える『彼女』は、鼠の真似をするしかなかったのだ。
不慣れな土地にして、外観を損なわぬよう同じ建物が並ぶ街で、『彼女』が迷い、途方に暮れてしまうのは無理もなかった。
渇ききった右目が奇しくも潤う。
「こわ……い……」
一人っきりの恐怖に『彼女』は涙した。
深夜の恐ろしさ。月は真円だが、背後に何かいるのではないかと身を震わせる。
『誰か』がいるのは怖い。でも、一人っきりは寂しい。
一人っきりだからこそ、誰かが怖くなるんだ。――私は、弱いから。
「……」
涙の塩分でさえもヒリつく右頬。いけないと、『彼女』は涙を拭う。


