突然。

「?」

タタタッ、と軽い足音を立てて、お嬢は俺の前に出てきた。

「…なんだよ」

立ち止まる俺。

そんな俺に。

「!!」

お嬢は大きく右手を振る!!

うわ、マジか!!

こんな重いもの持ってる時にビンタか!!

これじゃ防御姿勢もとれやしねえ!!

てか俺何で殴られんの!?

無視してたから!?ねえ無視してたから!?

わけわかんねぇ!てかごめんなさい勘弁して!!

瞬間的に色んな事が脳裏をよぎる。

しかし。

「っ…?」

大きなスイングの割には、お嬢のビンタは痛くなかった。

ペチッ、と。

小さな音がする程度の、ゆるやかなビンタ。

もう殆ど、触れるだけに近いようなビンタだった。