ご近所恋愛(笑)

「ひっ」とつい恐怖の声が上がる。


「…真田 誠(サナダ マコト)という。以後よしなに」


「よ、よしなに!」


緊張でガチガチになっていたせいか、私は何故か敬礼してそう叫んでいた。後ろから、樹さんと泉さんが吹き出した声が聞こえる。


(は、恥ずかし~っ…!)


以後よしなにという挨拶で「よしなに!」なんて敬礼し返す挨拶なんて決してない。

緊張してたとはいえ、あんな行為をしてしまったことが、今更ながら恥ずかしくなってきた。


「す、すみません…」


「…いや」


何と無く謝ってみたのだが、気まずさが倍増だ。

助け舟を求めるように振り返ると、二人は笑いをこらえるのに精一杯なようで、使い物にならなそうになっている。

どうしようどうしよう、とそれだけが頭の中をグルグル回っていると、真田さんから話かけてくれた。


「これからよろしく頼む」


「え!?あ、はい!」


勢い余って、私は真田さんの手をがしりと掴んで、握手を無理矢理交わす。

あ、と思った時には既に時遅し。

後ろからは何故か、二人の「あ」という素っ頓狂な声が聞こえた。

そして、目の前の真田さんの様子が何やら可笑しいことに気がつく。小刻みに、ぷるぷると震えていた。

俯いている真田さんの顔が真っ赤に染まっていく。


「~っっ…!」


パシッ、と私の手を振り払って、真っ赤な顔で私をまるで珍獣でも見るかのような目で見てきた。

いきなりのことに、驚いて私はきょとん、としてしまう。


「お、俺は失礼するっ!」


「あ……」


真っ赤な顔のまま、真田さんはダッシュで食堂を飛び出して行ってしまった。

残された私は未だに放心中だ。


「まあ、そう気を落とすな子猫ちゃん。あいつはただ女慣れしてないだけなんだ」


「女慣れ…?」


「うんー、誠くんは女の人と触れ合うのが苦手なのー。だからちょっと女の人が触っただけであの様なんだよ」


「へぇー…」


どうやら真田さんも悪気があったわけではないらしい。それを聞いて、ホッとした。

あまりにも私が失礼な態度をとって、嫌われたのではないかとヒヤヒヤした。