「あれー?幸子ちゃんじゃない」


(さっきからそう言ってたのに…!)


すっとぼけているイケメンさんに多少の怒りを感じながらも、ここは大人の対処だ、と自分に言い聞かせる。


「ごめんな、可愛らしい子猫ちゃん。うちの者が困らせたみたいで」


パチンッ、と慣れたようにウィンクをかまし、さらには私の髪の毛にキスを落とすお兄さん。

さすがに社交辞令でもそれはやりすぎだと思う。

私は少し身を引いて、苦笑を浮かべた。


「ど、どうも。私、藤咲 菫(フジサキ スミレ)と言います。ここの家主さんに会いたいんですけど…」


「雅さんに?」


色気ムンムンのお兄さんはこてん、と首を傾げる。


「もしかしてここに引っ越してくる子ー?」


イケメンさんにの方が私に詰め寄りながら尋ねてくる。あまりにも距離が近いので、身を引きながら私は「そうです」と答えた。


「そうか…君が…」


「ふーん…君がかぁ…」


二人が私を舐め回すように見ていると、突然二人の頭に拳骨が降ってきた。


「「痛っ!」」


ごつん、と鈍い音をたてて、殴られる二人。

驚いて見上げると、そこにはタバコを咥えて、無精髭を生やしたダンディーなおじさまがいた。

年寄りに見えるわけではない。どこか色気が漂っている、ダンディーな人。


「てめぇら、いきなり失礼だろうが。舐め回すように見やがって」


頭を抑えている二人を叱咤すると、おじさまはこちらに視線をむけてきた。
つい、ドキリとしてしまう。

可笑しい、私は別に年上の趣味とかないはずなのに。


「おめぇが藤咲 菫か?」


「は、はい!そうです!貴方は…」


「ここの家主の穴原 雅(アナハラ ミヤビ)だ」


鼓膜に直接響いてくる低音ボイスに、思わずクラクラしてしまいそう。

倒れそうになるのを堪えて、私は精一杯よく見てもらおうと、背筋を伸ばした。

本当のところをいうと、緊張でガチガチなだけなのだが。


「んじゃあ、さっそく入居テストをさせてもらうぜ」


「入居テスト?」


そんなの聞いてない。姉よ、どういうことだ。


「なぁに、難しいことじゃねぇ。俺の瞳を真っ直ぐに見る。それだけでいい」


「は、はぁ」