「いい。今日の調練は疲れたか?」


シア・ラークスはレンカに向かって言った。

その言葉は飽くまで部下を労うものであり、怜悧な視線は彼女特有の他者を入り込ませないものだ。

レンカは彼女がどういう人間がよくわかっているので気にしないことにしている。

仮にも自分が、夜を過ごした相手だとしても。


「すみませんでした。失礼します」


レンカは素早く服を身につけると、居室ドアの前で一礼した。


「レンカ・トラジェン」


シアが呼んだ。


「明日は山岳行軍だ。覚えているな」


レンカは背筋を伸ばし、はっと短く答える。
シアは頷き、レンカに背を向けると再び報告書類らしき紙に目を落とし始めた。