「ごめんね……。寂しい想いをさせちゃったね」
やっと安心して眠った千絵を彼が背負い、私たちは実家を出た。
お正月の深夜ではタクシーがなかなか見つからず、とぼとぼと夜道を歩いた。
冬の澄み切った空気が、お酒で少し火照った体にちょうどいい。
眠っている千絵が風邪をひかないよう、ストールをかけてあげた。
彼が歩くたびに、かすかな振動が千絵の寝顔を揺らした。
疲れきった寝顔だ。
長いまつげは涙で固まり、目の下には泣きはらした跡がある。
まるで初めてうちに来たあの日のようだと思った。
「私……千絵にかわいそうなことをしたわ」
「そんなに気にするなよ。子どもなんだから泣くこともあるさ」
「でも最近忙しくて、あまりかまってあげられなかったもの」
私が料理教室の準備に追われたり、彼との夫婦水入らずを楽しんでいる間、
千絵はどんなに心細い想いをしたことだろう。
親がいない寂しさは私が一番よくわかっているはずなのに。
明菜さんから千絵を引き取ったとき、何があってもこの子を幸せにすると心に誓ったのに……。



