「そういえばもうじき結婚10周年だな」
女の私でさえ忘れていたことを、彼はちゃんと覚えていてくれた。
改めて年月を言われると、その長さに驚いてしまう。
「早いわ、もうそんなに経つのね」
「記念に旅行とかしようか。たまには夫婦水入らずでさ」
「ええ。そうね」
10年前、あふれる希望の中で描いていた姿には、決してなれなかったかもしれない。
けれど今もこうして私たちはそばにいる。
それは揺るぎない真実だ。
久しぶりの穏やかな気持ちが、私を包んでいた。
新年会は遅くまで続き、お開きになったときには日付が変わろうとしていた。
「早く千絵を迎えに行かなきゃ。迷惑がかかるわ」
焦る私に、彼は余裕のある口ぶりで答えた。
「たぶんもう寝てるだろ。父さんたちはまだ起きてるはずだから、とりあえず行ってみようか」
ところが、その読みは見事に外れていた。
「夕食の時間くらいから、ずっと泣きっぱなしでしたよ」
まだ靴も脱いでいない私の腰にしがみつき、グズグズと鼻をすする千絵。
ずっとあやしてくれていたお手伝いさんが、ホッとした顔で言う。
「本当におふたりを恋しがっていたんですよ」
「千絵……そうだったの?」
最近はひとりでも眠れるようになっていたし、泣くことなんてほとんどなかったのに。



