……明菜さんの足音が、しだいに聞こえなくなってゆく。


「これからはオレたちで、明菜の分までこの子を可愛がってやろうな」


光は私の手を握りそう言った。


ええ、そうね。
たくさん愛情を注いであげましょう。

返事の代わりに強く手を握り返した。


千絵ちゃんはまだ玄関に立ち尽くし、明菜さんの出て行った扉を見つめたままだ。


「千絵ちゃん。さっきのお人形遊びの続きしようか。それとも違う遊びにする?」


返事がない千絵ちゃんの顔を覗きこんだとき、私は思わず息をのんだ。


大きな瞳からとめどなく流れる涙。

視線は、消えた母親の幻を追っている。


「ママ……ママ?」


千絵ちゃんはうわ言のように呼び続けた。

事情などわからなくても、本能で母親を恋しがっていた。


「千絵ちゃん。大丈夫よ、泣かないで」


震えている小さな体を私は抱き上げた。