隣の部屋では彼と明菜さんが、この子の将来について語り合っている。
薄い扉一枚。
頼りない隔たりは、ふたりの会話を隠してはくれない。
「明菜。もっと周りを頼れ。オレだっているんだから」
最後の決心がつかない明菜さんを説得する光。
長い沈黙のあと、聞き取れないほど小さな声で明菜さんは言った。
「光、お願いします。千絵を、幸せにしてください……」
かすかに聞こえる、鼻をすする音。
泣いているんだ。
そう気づいたときにはドアが開き、視界にリビングが広がっていた。
開けたのは、私じゃない。
千絵ちゃんだった。
「ママ、どこか痛いの? 泣かないで」
母の悲しみはそのまま子に伝わっていた。
千絵ちゃんまで今にも泣きそうな顔をしている。
小さな体で懸命に腕を伸ばし、母を抱きしめようとするその優しさは、よけいに明菜さんの涙を誘った。
「……明菜さん、少しお話よろしいですか?」
濡れた瞳を見開き、私を見る明菜さん。
よほど驚いているのか返事はなく、沈黙が流れる。
「オレと千絵は席を外すよ。ほら、千絵おいで」
私の気持ちを察した彼が、千絵ちゃんを抱いて部屋を出て行った。
ふたりきりのリビングで私たちは向かい合った。
薄い扉一枚。
頼りない隔たりは、ふたりの会話を隠してはくれない。
「明菜。もっと周りを頼れ。オレだっているんだから」
最後の決心がつかない明菜さんを説得する光。
長い沈黙のあと、聞き取れないほど小さな声で明菜さんは言った。
「光、お願いします。千絵を、幸せにしてください……」
かすかに聞こえる、鼻をすする音。
泣いているんだ。
そう気づいたときにはドアが開き、視界にリビングが広がっていた。
開けたのは、私じゃない。
千絵ちゃんだった。
「ママ、どこか痛いの? 泣かないで」
母の悲しみはそのまま子に伝わっていた。
千絵ちゃんまで今にも泣きそうな顔をしている。
小さな体で懸命に腕を伸ばし、母を抱きしめようとするその優しさは、よけいに明菜さんの涙を誘った。
「……明菜さん、少しお話よろしいですか?」
濡れた瞳を見開き、私を見る明菜さん。
よほど驚いているのか返事はなく、沈黙が流れる。
「オレと千絵は席を外すよ。ほら、千絵おいで」
私の気持ちを察した彼が、千絵ちゃんを抱いて部屋を出て行った。
ふたりきりのリビングで私たちは向かい合った。



