「鳥が逃げちゃったの……」


私は鼻をすすりながら答えた。


「君が飼っていた鳥?」


「うん。カナリア」


「大変じゃん。オレも一緒に探してあげるよ」



大真面目な顔をしてそんなことを言うから、私は思わず涙を忘れて笑ってしまった。


空に逃げた鳥を捕まえるなんて、できるわけがないのに。




「オレ、源光っていうんだ」



“光”という名がこれほど似合う人を、私は他に見たことがない。


あの時そう思ったし、今でもやはり思っている。






雑木林の中には、私だけの秘密の場所があった。


椅子のような丸い切り株がふたつ並び、正午になると木の間からまっすぐ太陽が注がれる。


まるで、天然のスポットライトだ。


その場所に初めて招待したのが、彼だった。



私たちは肩を並べて切り株に座り、いろんな話をした。


夏休みの旅行で東京から遊びに来たんだ、と彼は言う。

歳は私より4つ上。

高校生だった。



しだいに、ふたりの意外な共通点が明らかになっていった。


「え、じゃあ君のお父さんって、あの渡部さんなんだ?」