もし本当に今、彼がどこかの女性を抱いているとしたら。
私はどうすればいいのだろう。
あの恐ろしい行為を、それでも他の人にはしてほしくないと願ってしまうこの心を、
どうすればいいのだろう?
「紫乃。もう眠った?」
しばらくすると、扉がノックされた。
聞こえてきた声はもちろん彼のものだ。
「……うん。眠った」
その言葉に小さく笑いながら、彼は部屋に入ってくる。
そして壁のそばでうずくまって顔を隠す私に、たしなめるような声で言った。
「まだすねてるのか?」
「………」
「もうオレを許してはくれない?」
私は答えなかった。
自分の感情の正体すらわからないのに、どうやって許せというのだろう。
代わりに、胸を埋めつくしていた疑問を口にした。
「お兄ちゃん、今日はどこに行ってたの?」
「え? 友達の家だけど」
「女の人?」
やっと目を合わせてたずねると、彼はぽかんとした表情になった。
そして数秒後には、何かを了解したように微笑みを浮かべた。
「違うよ、サークル仲間の男。どうして紫乃はそんなこと聞くの?」
「……わからない」
「オレが、教えてあげるよ」
いつもの、彼の口調だった。
「それは恋っていうんだ」
「恋?」
「きっと紫乃は、オレに恋しはじめてるんだよ」
光から教えられた、数々のこと。
そのうちのひとつが、恋という感情だった。



