別れの前日の夜、夫がきんぴらごぼうが食べたいと言った。



普段、そんなことを言わない夫は、台所で料理をする私をただ見つめていた。




きんぴらごぼう…




それは、夫が最も愛した亡くなった奥さんの得意料理だということは知っていた。



夫は、私の姿を見つめながら、愛する人を見ていたのだ。



わかっていたからこそ、心を込めてきんぴらごぼうを作った。



夫は、私ではなく、愛した過去の女性を私の中に見出していたのだろう。




夫も・・・


そして、光もまた、私に母の姿を重ねていた。



私は誰からも愛されてはいないんだ。




私は二人分には多すぎる量のごぼうをひたすら切り続けた。



整理できないさまざまな気持ちが、ごぼうとにんじんと共に刻まれていくようだった。




均等な細さに丁寧に切る。




その夜、夫と二人で食べた夕食が、私と源首相との最後の晩餐となった。



光は、最後の晩御飯を一緒には食べてくれなかった。