そして、


夫が出張へと出かけた後だった。


午前七時。



―――トントン






ノックしたのは、間違いなく光。




ドアを開ける前に深呼吸をした。





「藤乃…今日の晩御飯、肉じゃが?」




久しぶりに見るおどけたような無邪気な表情がかわいく思えた。


光は、何も変わっていない。



初めて食事をしたあの日と同じ笑顔で、私とドキドキさせた。



紺色のブレザー姿の光は、有名な進学校へ通っていた。





「今晩は、肉じゃが作るから早く帰って来てね。」



私の心臓の激しい高鳴りが聞こえそう。



無理して強がって笑う私の頬に、光はまたキスをした。



「行って来ます!!」




そうか…



母親が小さい頃に亡くなって、光は母の愛に飢えているんだ。


私を異性として意識しているわけでなく、私に母の愛を求めているんだ。


一人で禁断の愛に怯えていた自分が恥ずかしくなった。