月明かりに照らされた顔は、僅かな驚きのあと、いつもの笑顔になった。
「気持ちはありがたいけど、遠慮します。ダメですよ、若い女性がこんな時間に男を部屋に上げるなんて」
どこか予想出来ていた否定の言葉。けど、その言葉の中に私は希望を見出だす。
--私を“女”だと。自分は“男”だと。彼は言った。
“こんな時間”に男が女の部屋に上がり込む事が何を意味するか…彼は分かっているんだ。
掴まえていた大きな手を、そっと自分の胸元へと引いた。
再び驚いた表情を浮かべた彼を、甘えるような上目使いで見つめる。
「…私、先週カレシと別れたんです。どうしてだか分かりますか?」
私の言葉にただ黙って見つめ返した彼の手を、ぎゅっと抱きしめるように胸に押し当てた。
「オーナーの事が好きだからです」
我ながらストレートな告白だと思った。もうちょっとカッコつけたかったんだけどなあ。
でも、もうここまで来たら後に紡ぐのは大人の言葉だ。
「貴方のことが好き…お願い、オーナー。今夜は夏々って呼んで…」
抱いて。キスをして。
オーナーでも店長でもない。ひとりの男とひとりの女になって、私と愛し合って。
流れる沈黙に高鳴る鼓動。
不安――けれど、私の中にある確信。
『貴方に1番近いのは私でしょ?誰より貴方を分かってあげられるのは私でしょう?』
傲りにも似たその確信は…
「…ありがとう玉城さん。気持ちはとても嬉しいです。
…けど、申し訳ありません。僕はそれに応える事は出来ません」
胸から引かれた手と共に、夢から覚めるように打ち砕かれた。



