「玉城さん、大丈夫ですか?」
--酔ったふりをした。
おぼつかない足取りで歩き、タクシーに乗せられても支えてくれた腕を離さなかった。
「玉城さん。僕、帰りますから、ちゃんとタクシーに行先を告げて下さいね」
「…んー…」
彼の腕を掴み、行先も告げないまま寝てしまった(フリだけど)私に、タクシーの運転手さんが面倒臭そうな声を出す。
「お客さん、このままじゃ困るんで一緒に乗って送ってってあげてくれませんかね」
そう言われて、彼は大きなため息を1回つくと、あきらめたように私の隣へと乗り込んだ。
…寝たフリをしながら、私の胸は爆発しそうなほど高鳴っていた。
車が揺れた拍子に、彼の体にもたれかかってみる。
ふっと感じた温かさに、香りに、たまらなく気持ちが昂る。
ああ、抱きしめたい。このままキスしたい。どうしよう、すごく好き。
アパートに着くまでの10分間。
広い肩にもたれ掛かって目を閉じていた私は、とても幸せだったと思う。
「ごめんなさい、こんな所まで送らせちゃって」
タクシーを降りて、ふらつく足の私を支えながら彼は部屋の前まで送ってくれた。
「いいえ。それより、部屋に戻っても転ばないように気を付けてくださいね。戸締まりも忘れないように」
この期に及んでも彼らしい心配の仕方に、笑いと微かな不安が込み上げる。
「それじゃあ、僕はこれで。おやすみなさい」
踵を返そうとした彼の手を、とっさに掴んだ。
ああもう。やっぱりズルい、この男は。
気付いてる筈だ。ここまで私が“連れてきた”事に。
「待って下さい、オーナー。送ってくれたお礼に…お茶でも飲んでいって下さい」



