女子高生の想いをはぐらかすような意見を述べた彼にイラついたのは、どこか自分を重ねていたからかも知れない。
私も彼女と同じなんじゃないか、と。
もし彼に好きだと告げたら、『それはオーナーである僕に対しての信頼の気持ちであって、好意とは違うんじゃないですか』と、交わされてしまうんじゃないだろうか。
あの、優しい笑顔で残酷に。
「ムカつく…殴ってやりたい」
勝手な想像をして、ひとりで憤った。
憤って…不安になった。
彼の目に私がどう映ってるか、分からなくなって。
--どうか私をひとりの女として見て欲しい。
1番彼に近い女として。
そんな切なる願いを抱き、胸が締め付けられるほど、この頃の私は彼を好きになっていた。
好き。水嶋紗和己が誰よりも。
彼が欲しい。彼に抱かれたい。
どうか私を見て。私を好きになって。
日々膨れ上がっていく気持ちが自分でも止められなくなってきた頃、ずっとこじれていたカレシとの別れ話に決着が着いた。
やっとスッキリしたと云う開放的な気持ちと、ほんの少し寂しい情の気持ち。
そんな心を抱えていた時に、ナイスと云うかバッドと云うか。【pauze】一周年を祝った飲み会が、このタイミングで開かれた。
彼がお酒を飲む姿は、こうしたお店の飲み会でしか見た事がない。
毎日これだけ女性従業員に囲まれて働いてると云うのに、彼は女性の誘いにのった事がない。
数多の告白も断り続け彼女も作らず女とも出掛けない。あまりの潔癖さに『オーナーは出家してるんじゃないか』と野原さんが疑い出したくらいだ。
そんな彼の貴重な飲酒姿。
普段よりリラックスした様子でゆっくりとアルコールを口にする姿に、胸のうずきが止まらない。



