その答えに密かに安心しつつ、ちょっと探りも入れてみる。
「高野さん、可愛いじゃないですか。好みのタイプじゃなかったんですか?」
尋ねた私に、彼はさらに困った表情を浮かべると
「からかわないで下さい。高野さんはまだ高校生ですよ」
と答えた。
「あら、オーナーって歳の差を気にするんだ?それとも、条例が怖いんですか?」
調子に乗って意地の悪い事を聞いた私に、彼はますます困った顔をして眉間にシワを刻む。
「彼女はまだ子供です。身近な歳上への憧れと恋心の区別が付いてないだけですよ。高野さんはいい子ですから、僕みたいなおじさんじゃなく、ちゃんと彼女に合った男と年相応の恋愛をすべきだと思います」
…これ、この男の悪いところだと思う。
彼は人の好意にちょっと鈍感だ。
自分がそうであるように、他の人も皆、その善行に下心がないと思っているのだろうか。
それとも、完璧に近いスペックを持ちながら謙虚過ぎる姿勢がそうさせるのか。
「そんなこと言ったら高野さん傷付きますよ」
チクリと釘を刺してやった。
どんな形であれ、本気だった恋心をそんな風に否めるのは残酷だ。
きっと本人は彼女のためを思って言ったのであろう発言を私に否定されて、不思議そうな顔をしている。
「…そうですか?」
本当に。分かってないんだな、この天然タラシは。
「そうですよ。オーナーって鈍感」
天然に残酷な優しさを振り撒く罪深い男に、ちょっとキツい鞭を与えて、私は自分のコーヒーを飲み干して事務室から出ていった。



