カレシとの別れ話をこじらせながらも、私の毎日はとても充実していた。
この仕事は本当に楽しい。
オーナーの厳選してきた品物を、お客様の手へと渡していく仕事、とでも言えばいいのか。その品物の魅力が最大限にお客様に伝わるよう店長として努力し続けた。
新しいディスプレイを考え、従業員にも商品の知識を徹底させる。店名の通りお客様が安らげるような空間で買い物が出来るような雰囲気を作り、ハイセンスな品物に負けない上質な接客を心掛けた。
そして、その努力が売上へ結び付くたび掛けてもらえる「ありがとう」の言葉に、彼との距離が少しづつ縮まっていく実感が何より嬉しかった。
決して自惚れじゃない。
私は彼にとって無くてはならない存在で
彼に1番近い女だと、自覚していた。
「玉城さん、あの――」
「サマーセールの販促品ならもう準備出来てますよ」
「えっ。スゴいなあ、僕まだ『あの』しか言わなかったのに、どうして分かったんですか?」
「そりゃ分かりますって。これだけオーナーと顔付き合わせて仕事してるんだから、これぐらいはねえ」
「はは、玉城さんには敵いませんね。本当、頼りになります」
こんな会話は日常茶飯事だった。
彼もそんな関係に段々と慣れていき
「玉城さん、7月分のいつもの、お願いしますね」
などと、自分の意思を私が汲み取ってくれる事を前提とした言い方をする事が増えてきた。
…彼は気付いてるのだろうか。
その台詞に、信頼を通り越した私への甘えがある事に。
『玉城さんなら僕の言いたい事を分かってくれる筈』
と云う、身勝手で、それでいて私を喜ばせる甘えがある事に。



