大学時代、趣味であちこち海外を旅しながら現地で言葉を学んだのが評価され、採用の連絡がきたのはそれから1週間後だった。



「オーナーの水嶋紗和己です、改めて宜しくお願いしますね」


そう迎えられ始まった私の【pauze】店長としての日々。

それは実質、彼の片腕と言っていい仕事だったと思う。


しばらくはただとにかく忙しかった。

お店に入ってくる商品と取引先の把握。従業員の教育。オーナーと共に店内の商品配置を考え製品の素材や取り扱いも学んだ。


自慢じゃないけど我ながら頭は悪くないし機転も利く方だ。

開店準備、新規開店と一番忙しかった時期に、彼の期待以上の働きが出来たのではないかと思っている。



そしてそれが自惚れでないと証明されたのは【pauze】が開店して3ヶ月後の冬。遅い開店祝いと新年会を兼ねた飲み会での事だった。


「玉城さんに店長を任せて本当に良かったです。貴女なしでは【pauze】をここまで盛り上げられなかった。ありがとう」


乾杯の音頭の際に、素直に真摯に言われたその「ありがとう」と

宴もたけなわになってきた頃、私の隣で気分良さそうにビールを飲んでいた彼が柔らかく目を細めて言った

「玉城さんはとても頑張り屋ですね。けど、疲れた時はいつでも言ってください。僕がフォローしますから」

その台詞が、私の【pauze】店長と云う立場をただの“やりがいのある仕事”から“かけがえのない仕事”へと変えさせた。


―――必要とされてる。この店に、この人に。


そう実感できた事が、この上なく心地よかった。