「なんか幸せだなあ、こういうの」


「本当ですね。ふたりで生活してるなーって充足感がありますね」


ほのぼの満たされる時間。
でもね。
私、気付いてるよ。


「紗和己さん、これが終わったら一緒にお風呂入ろうよ」


我慢してるよね、紗和己さん。

DVD観てるときも、昼食作ってたときも、ちょっと私から離れてた。

くっつかないようにしてたの、気付いてるよ。


「……ダメです。それじゃあ先週の二の舞になっちゃいます」


紗和己さんは手元の栗から目を離さないまま、きゅっと引き締めた表情で言った。


それをチラリと上目で確認してから、私も手元の栗に集中しながら話し出す。


「あのね、紗和己さん。佐知が言ってたんだけどね、子供が産まれたら1日中ベッドでイチャイチャなんてもう出来ないんだって。妊娠中も、出来ない事はないけどほら、体を気遣うようになるし」


私の話に、紗和己さんの栗を剥くナイフが止まったのが分かった。


「蜜月とはよく言ったもんだよね。結婚してから子供が出来るまでの期間ってすっごい貴重だと思わない?」



永遠の愛を誓い合って、熱々甘々なこの新婚時代。

きっとすぐに訪れる次の幸せまでの、大切なふたりのトロトロに蜜な時間。



「…今だけ、ですかね」


「多分ね。だって新婚なんだもん」



カタン、と栗とナイフを置いて紗和己さんが椅子から立ち上がった。


「僕、お風呂用意してきます」


パタパタとスリッパを鳴らして部屋から出ていった紗和己さんの背中は明らかに嬉しそうで。


私も嬉しさとドキドキの滲む表情でそれを眺めた。