母になって
彼女はますます美しい。
女性と云うのは本当に神秘の存在だと思う。
自分の中に新しい生命を宿し、長い月日と全身全霊をかけてそれを育んでいく姿は母性と云う美しさに溢れている。
その凛々しさと深い愛情を湛えた姿は、生き物の本能として人を魅了するほどに。
……なるほど。絵画に母子のモチーフが多く扱われるわけだ。
などと、花海を抱く美織さんを見ていて心底納得してしまった。
けれど、当の本人は僕の心酔など露知らず。
女性には女性なりの悩みが別にあるようで。
花海が産まれてから数ヵ月後。初めて出産後の美織さんと身体を重ねようとした夜のこと。
甘く深いキスのあとに、彼女は少し躊躇いを見せた。
…昼間の育児で疲れているのかも知れない。あるいは体調がまだ万全でないのかも知れない。
そう心配して様子を窺った僕に、美織さんは恥ずかしそうに俯きながらモジモジと告げた。
「あのね…お腹とか、まだあんまり体型が戻ってないの…。だから、電気消してあまり見ないでね…」
そんな可愛い心配をする姿に、思わず笑いが零れてしまい怒られた事は反省している。
けど、僕にとって彼女の心配は杞憂どころか全くの正反対で。
子を産みいっそう柔らかさと優しい曲線を帯びた身体は、僕の愛と劣情を煽る以外のなにものでも無かった。



