「体外受精って……そこまでしなくちゃいけないものなの?」


久しぶりに訪れた実家で、私の話を聞いたお母さんが紅茶を淹れる手を止めて顔を上げた。


その表情に、胸がひそかに鈍く痛む。


「人工受精よりは確率が高いってお医者さんが…」


「そうじゃなくて、自然妊娠が絶対無理ってワケじゃないんでしょう?」


その悪意の無いはずの質問にさえズキズキと痛むほど私の心は弱虫になっていて。

もう、答えを口に出すことさえ出来ずに泣きそうな顔で黙ってしまった私を見て、お母さんも言葉を失ってしまった。



……来るんじゃなかった。

言わなければ良かった。こんなこと。


お母さんなら、同性の親なら、私をこの苦しさから救ってくれるかもしれないと漠然と思って、藁にもすがる思いで来てしまったけれど。

親だから、同性だからこそ、お母さんもショックなんだ。

ああ、来るんじゃなかった。



母を通して自分の抱えている問題の大きさを改めて突き付けられた気がした。



「…それで、紗和己さんはなんて?」


「まだ…何も。ただ、私の心配してくれてる」


「そう…」


もう無理をして元気に見せる余裕もなくて、俯いてしまった私の頭を、ゆっくり近付いてきたお母さんがそっと撫でてくれた。


「……あまり…無理をしちゃダメよ。子供を望む気持ちも分かるけど、お母さんは美織の体を大事にして欲しいわ」


「………うん……」



精一杯の親心から優しく掛けてくれたお母さんの言葉さえ。


“無理をしなければ妊娠が望めない、普通じゃない体”だと憐れまれてるようで。



「……お母さん……」


「なに?」


「……お父さんには言わないで…良介にも……誰にも言わないで…お願い……」



頭を撫でてくれた母にすがって泣きながら

私は、自分を恥じてしまう。



当たり前に子供が望めない自分の体を、恥じてしまう。