「家ねえ」


「そうなの、もう4ヶ月も住宅展示会巡りしてる。迷いだしちゃうとけっこう大変」


テーブルの脇に積まれたパンフレットの山を見て、佐知が呆れたように笑った。


「自宅付きの工房に嫁いだ私には無縁の悩みと夢だわ。一生に一度の買い物だもんね、大いに悩みなさいよ」

「まんまー」

「はいはい、ノリにはあと20年は無縁のお話しでちゅよー」


膝の上でお菓子を手にしながら会話に加わってきたノリちゃんに、佐知が馴れた様子であやす。



寒かった冬がやっと身を潜め、春の足音が聞こえ始めてきたここ最近。

今日は佐知が1歳半になる娘のノリちゃんを連れてうちまで遊びにきてくれたのだ。


可愛い盛りのノリちゃんが遊びにきてくれてメロメロになった紗和己さんは、30分ほど前、後ろ髪を引かれるようにして仕事へと出掛けていった。

「社長、ほんっとうに子供好きなんだね。相変わらず、過ぎるほどのイイ人だねー」

という佐知の苦笑に見送られて。



「まんまー、ほん、よんでー」


「これは絵本じゃないよ、ノリ。おうちの写真なの」


佐知の膝の上で、小さな手で一生懸命パンフレットを広げるノリちゃんが可愛い。


「可愛いねえ、ノリちゃん。ほんと、子供って何してても天使みたいだねえ」


私もほんわかと目元がとろける。


「良かったねーノリ、可愛いってさ」とグリグリとノリちゃんの頭を撫でながら、佐知がふと視線をこちらへ向けた。


「で、おたくの天使ちゃんはいつになるの?」


その質問に、飲み掛けた紅茶がちょっと喉に詰まる。


「うーん。いつでも、とは思ってるんだけどね。その為の家探しだし」


「子作りはしてるんだ?」


「またそんな直球な質問を…。まあ、そのつもりではしてるんだけどね。でも今は自然に任せてる感じかな。授かり物だし」


私の呑気な答えに、佐知がちょっと真剣な顔をして指を折り始めた。