――あの女の傷付く顔が、私のやすらぎになっていく。


狂ってる。分かっている。でも、止められない。



……分かってる。

こんな酷い事をする私には、必ずバチが当たるって。分かってる。





そしてその時は、あっけなくやって来た。



「美織さんに、何を言ったんですか」


閉店後の静かな事務室で、沈黙から突然彼が聞いてきた。


ゆっくりと、私の背筋が冷たくなる。


「なんですか、急に。言ってること意味わかんないですよ」


こわばった笑いで目を逸らした私を強く見つめながら、彼は自分のポケットから幾つかの硝子ビーズや金具を取り出した。


「…事務室の机の下に落ちていました。サンキャッチャーの部品です…おそらく、納品時に割れていたと言っていた、あの時の」


低く発せられていく彼の声が私の体に響いて、手のひらに汗を滲ませる。


「あのサンキャッチャーは箱の中で割れていた筈なのに、部品が幾つも事務室に落ちてるのはおかしいと思いませんか?」


ああ、もう、彼の目が見れない。


冷たい。冷たい眼差し。


5年間の信頼を積み重ねた店長の玉城夏々に向けていたのとは違う、厳しい眼差し。


ああ。思い出した。これは。


大切なものを守るときに、彼が驚くほど冷静に割り切ってみせた、あの時の目だ。




「…はは、スゴいですね、オーナー。探偵みたい。
そうですよ。お察しの通り、私が床に叩き付けて割ってやりました」


「…っ!!」



―――ダンッ



一瞬だった。

彼が今まで見せた事のない険しい表情で私の腕を掴み、強く音をたてて壁に押し付けたのは。