ズルい。

私がこんなに側にいても与えてもらえなかったものを、あの女は昨夜手に入れたのだ。


彼の“男”としての顔を知ってるんだ。


ズルい。ズルい。私の方が彼を知ってる筈なのに。私の方がずっとずっと彼に必要な存在なのに。


……悔しい……!



この恋で、初めて泣いた。

告白を断られたときも、彼があの女と付き合ってると聞いたときも、堪えてきた涙がついに溢れ出た。


帰ってひとりの部屋でたくさん泣いた日から、私の恋心は音をたてて狂っていく。





12月10日。国内商品の納品日。


送られてきた商品をひとつひとつ検品していく作業の途中で、硝子のオブジェが私の手を止めた。


透明で眩く光る硝子飾り。


繊細に巧みに綴られているそれは、決して私には作れないと思った。


私にはそんな才能もセンスもない。


イヤだ。あの女と比べると自分がどんどん惨めになっていく。


必死に努力して、やっと彼の側に居られるだけの私。

けれど、決して女として必要とされない私。

店長としてだって、私の代わりを勤められる人はきっといる。才能ではなくただの努力なんだから。


私は彼の唯一無二の存在にはなれない。

仕事でも。恋でも。


「……っ…」


イヤだ。イヤだ。

自分を嫌いになりたくない。


「……悔しい…っ…」


大ッキライだ。

大した努力も苦労もしてないクセに、私をこんな気持ちにさせるあの女が。


鈴原美織が、大嫌いだ。


―――カシャン


床に叩き付けた硝子飾りが、煌めきながらくだけ散った。