しばらくは,


ずっと口も聞かなかったな.



話す内容なんて全くなかったし.



でも,1年前のあの日,



一気に印象が変わったんだ.



あいつは相変わらずだった.


あいつを見る俺の目が変わったんだ.




あいつは一人で自販機の前のベンチに座っていた.



ベンチはいくつかあって,



タバコを吸う教授や学生がいるが,


この時はあいつだけだった.



俺は喉が渇いて,


冷たいもんでも買おうかとここに来たが,



あいつが温かそうな飲み物をすすっていたから,


つられてあったか〜いの方のココアを買った.


そんで,



あいつのところに行った.


「なんで,そんなとこで飲んでんの?」


「悪い?」


お前は怒るでも笑うでもなく,



そう聞き返した.



「悪かねぇけど,


寒くねぇの?」



「寒いけど,あたたかいよ.


これがあるから.」



そう言ってあんたは微かに笑った.



俺はそいつの隣に座って,


さっき買ったココアを一口すすった.


じんわりとした温かさが体にしみわたった.



「ほんとだ.」



俺が言うと,



「でしょ.」


と,短く答えた.



それが和泉だった.


和泉の座っていた反対側の隣には,



赤いようなオレンジのような袋があった.



俺の視線に気づいたのか,


和泉はそれを手にとると,



「これ,あんたにあげるよ.」


と言ってぞんざいに投げてよこした.



中身は,


お菓子とか飴とか沢山のものが入っていたが,


なぜかみかんがいくつか入っていた.




「いらねぇよ.

なんだよこれ.」



「うん,私もいらない.

なんかもらった.


要らなきゃ捨てていいよ.


ってか捨てるとこだったし.」



「食いもん粗末にすんなよ.」



和泉は目を大きく見開くと,



「じゃあ,みかんだけ一つもらおうかな.


あんたの頭みたら食べたくなった.」




そうして一つ袋から取り出した.




「なぁ,


俺の髪の色,


気にくわねぇの?」



何でそんなことを聞いたのかわからない.


でも,


聞きたくなったんだ.



俺の髪色に似ているそのみかんを,


さみしそうな目で見つめているから.