石原は、俺の問いにキッパリと答えた。


「何もされてねぇよ。

私は、何かされるほど弱くないんでな。」



俺は、眉間にしわを寄せる。


「本当かよ?」


「本当だ。」


石原は迷いなくそう答える。



なら。

それなら、なぜ――



「じゃあ、なんで俺の顔見ないんだ?」




その問いを放った途端。


石原の体がビクッと反応した。



さっきまで、何もされてないとキッパリと答えていた石原が、黙った。







数秒の沈黙の後、石原は小さなかすれた声で、呟くように言った。




「・・・・・・ごめん。」



幼い子供のような言い方だった。


わりぃ、ではなく、ごめん。





「ごめん、私自身の問題。

今は――森井の顔、見れない。」




予想外のことに、思考がついていかない俺の横で。


石原はガタンと席を立った。






「本当に、ごめんっ・・・・・・。」




真っ直ぐに俺に向けられた瞳には。


涙が、今にも溢れ出そうなほどに、溜められていた。








石原はどこかへと、走り去って行った。




俺は、その場にへたりこんだ。








―――なんで、泣きそうな顔、してんだよ・・・・・・。



俺の顔を見る見ないよりなにより。




泣くな――・・・・・・。





そう、願った。







―千春side end―