「椿様、怜斗様。ここが華が崎学院にございます。」
執事が車を止めた。
「正門の左側が中等部、右側が高等部になっておりますが…」
「大丈夫、花蓮に案内してもらうから」
「へぇっ?」
…思わず、変な声が出ちゃった。
お兄様がこっちを子犬のような眼をしてみている。
「ダメ?」
「いや、ダメってことはありませんけど…。どうなさいますか?お嬢様」
え~、高等部なんてどこに何があるかしか知らないよ…。
「椿、花蓮ちゃんに無理させるの悪いんじゃない?」
「え、いいですよ!詳しいことはあんまり教えられないかもしれないですけど、知ってることは教えて差し上げます…」
山村様に気を使わせちゃったかな…?
「それに、山村様に頼まれたら断れませんし…」
「なんだよ、花蓮。怜斗だったらいいのかよぉ。それになんなんだ、『山村様』って。『怜斗』でいいんだよ」
ぶつぶつ文句を言いだすお兄様。
ていうか、呼び捨てはさすがにまずいって知らないの?
「なんだ、椿。俺に嫉妬か?」
にやりと笑う、山村様。
「それから花蓮ちゃん、俺の事はほんとに『怜斗』でいいから。」
突っ込みどころ満載の兄弟でごめんなさい!!!
「じゃあ、呼び捨てはやはりいけないと思うので…。『怜斗様』で。」
「―んー、まあいっかな?呼び捨てがよかったけど。」
「今なんて?」
「何でもないっ!さ、行こうか花蓮ちゃん」
「あ、はいっ!!」

「ここが講堂です。主に学院祭とか合唱部、グリー部が使っています。とても音響がいいんです。」
「グリー部?」
怜斗様が質問する。
「お前、しらねぇのか?日本でもそれに関連したドラマやってたみてぇだし、俺も入ってたじゃねぇか」
お兄様が爆笑している。
「お兄様、グリー部に所属していらっしゃったのですか?」
「そうだよ、当たり前じゃないか。歌の好きな、俺だぜ?」
いや、初めて知りましたから。
意外と抜けているのかもしれない。
「花蓮ちゃんは何部?」
「私は、吹奏楽部に」
「楽器は?」
「ホルンでございます」
そう、私はホルンを楽しむ。
100万円の金のホルン―。
小さいころからホルンだけは好きで、一生懸命練習していた。
「椿、やっぱおしゃれだな」
「さすが、うちの妹だ!」
そういってハグされる。
———ギューッ…
うぅ、苦しいです。

その時、校庭の片隅にある射撃場から銃の音がした。
—―—パーンッッッ
今でも銃声を聞くとちょっと怖い。
身震いがするほどの恐怖の一瞬。
「…大丈夫?」
怜斗様が気を使ってくれる。
「あ、はい…」
「花蓮、あれは何の音だ」
お兄様は、落ち着いたまま。
そういうところは、本当にカッコイイ。
「今のは、射撃部の練習の時に発せられる音にございます。」
「射撃部?」
「…銃か」
怜斗様の目が一気に冷たくなる。
さっきまでの柔らかい笑みが一瞬で消えたみたい。
「そうですけど…。どうかなさいましたか?」
「いや、別に」
———私、なんか悪いこと言っちゃった?
ひとりで落ち込む。
私たち兄妹は、しばらく行動の真ん中で固まっていた。