さよなら。想い出*.


 急ぎ足で向かう途中、
いつもご飯を一緒に食べる同期とすれ違う。
「あれ?美咲今日は外出?」
「あ、うん。お疲れ!ごめんね!」
「気をつけて~転けんなよ~」

あたしがその場所につく頃には
車が1台止まっていて、運転席から
拓さんが顔を出す。
「美咲ちゃん、乗って乗って~」
少し緊張しながら後部座席の扉を開ける。
「え?助手席乗りなよ。美咲ちゃんしか乗らないんだから」
「あ、はい。お邪魔します…」
ドキドキしながら助手席に腰を下ろした。

「なんか俺が見るときいつも美咲ちゃん走ってんね(笑)」
「え?そうですか?恥ずかしいです…」
普通に会話をしながら少しずつ会社から遠ざかる。
「俺のよく行く店でいい?」
そう言ってお洒落な居酒屋に着いた。
いろんなことを話しながら時間が過ぎる。
拓さんがあたしより3つ年上ってこと、
長く付き合った彼女と別れたこと、
知らなかった部分を少しずつ知っていく。
あたしにとっては特別な時間だった。
ある程度時間が過ぎて、お店を出る。
「美咲ちゃん、行きたいとことかない?」
月の明かりで照されて、キラキラ光る拓さんの髪の毛が綺麗だった。
「行きたいとこ…あ、海に行きたいです!」

あたしは海が好き。
特に夜の海が大好き。
波の音を聴くと心が落ち着く。
連れてきてくれたのはそんなに遠くない海。
あたしは砂浜をはしゃぎながら走る。
「美咲ちゃん海好きなの?」
「はい!なんか落ち着きます。
それに、波は必ず引いてまた戻ってくるから。
ホッとします。川とかだったら流れていくばかりで…置いてけぼりにされてるみたいで…」
海の中にチャプチャプ足を入れてたら
拓さんに呼ばれる。
トントン、と腰掛ける隣の砂浜を叩く。
おいでっていうこと。駆け足で隣に座る。
「美咲ちゃんさぁ、彼氏いないの?」
ふと、拓さんに尋ねられる。
「彼氏ですか?いないですねー(笑)」
へらへら笑いながら答えると、
ぎゅっと拓さんがあたしの手を握る。
「美咲ちゃん、可愛いのに」
拓さんの髪を海の潮風が揺らす。
「え?可愛くないですよ!それに、今まで彼氏とかと手とか繋いだこともないですもん!」
手をブンブン振り、言葉を否定する。

「じゃぁ、俺が初めてだ」
月の光に映し出された拓さんは
子供みたいに笑って手をさらに強く握った。