事の起こりは、そう、約30分前。

バイト先の、カラオケ店での出来事だ。



「……は? や、嫌ですよ、そんなの」

「まあまあ、柚月ちゃんそう言わずに」



にこにこ、人の良さそうな笑顔を浮かべて話すのは、薄くなった頭頂部の髪が寂しい、ここの店長さんだ。

その手には、何やら赤い布のようなもの。あたしはそれから目を離さないまま、引きつった顔でまた口を開く。



「いやだって、いくら今日がクリスマスとはいえ、さすがにそれは……」

「クリスマスだから、ね。やっぱりそれに便乗した客引き方法を考えないと」

「だからって、なんであたしが……」

「またまたー」



そう言って店長は、やっぱりにこにこ笑顔で、あたしの胸元にある、ネームプレートを指さした。



「サンタクロースは、やっぱり『さんた』ちゃんがやらないとね!」

「いやあたし、『三多』ですから!! サンタじゃなくて、ミ・タ!!」



他に誰もいないスタッフルームで精一杯否定するも、対する店長はやはりにこやかだ。

大丈夫大丈夫、と軽ーい調子で言いながら、店長があたしの頭に赤い帽子を被せた。

律儀についている白いボンボンが、間抜け面のあたしのひたいの前に、たらりと垂れ下がる。



「ちゃーんとサンタさんの相棒もいるから、ね?」