走り去っていく後姿を、俺は追いかけることができなかった。

身動きせずに小さくなっていく背中を見つめた。


その時の俺は、ただ歌が聞けないことがショックだった。



怖がらせちゃったな・・・。

そんなつもりじゃなかったのに。


結局ひと言も返してくれなかった。
喋ってさえもらえないのに、歌ってもらえるわけねぇよな。


俺はもう一度ベンチに座りなおした。

もう聞けないんだと思うと、余計にあの歌が恋しくなる。


一度聞いただけでこんなに翻弄される。

すごい魅力だ。

たぶん俺は聞くたびに何度も何度もとりこにされる。



まるで、天使のような歌声。





「段階踏めばよかったな」

そうだ。

いきなり知らない奴に歌えなんて言われたって歌うわけない。

歌ってもらう前に、まずは話すことから始めよう。
普通に喋れるようになって

仲良くなって


それからだ。